発売から1年以上経ってしまいましたが、『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』久保田 瞬、石村尚也 著 日経BP 2022/06/16*1のレビュー(?)です。
メタバースの無限の可能性を語る一方で、現時点でのメタバースがまだ黎明期であり、収益化はまだ難しいことをも指摘している、とても冷静な筆致の本です。
この本でもっとも大事なポイントは、メタバースに関心のあるビジネスパーソンが最初にすべきなのはメタバースを「体験」することだ、という指摘でしょう。
また、体験時の6つのポイント((1)過程も体験する (2)いろいろなメタバースに参加してみる (3)イベントに参加する (4)VRヘッドセットで体験する/スマホで体験する (5)アバターを作ってみる (6)ワールドを作ってみる)が明示されています。
正しく体験しないと、メタバースを過大評価したり、逆に幻滅してしまったりすることになりかねないとの指摘は、全く正しいものだと思います。*2
そう、メタバースはまずは体験することが必要です。
一方で、Chapter1においてNFTやWeb3に関連して、
短絡的にメタバースとNFT関連技術を絡めて考える『技術オリエンテッド』よりも、メタバースを構築する、あるいは利用する中で課題が出てきたときに立ち止まり、技術によって解決できないかと考える『課題オリエンテッド』な姿勢こそが、メタバースをより良いものにしていくためには望ましいだろう。
*3
と述べられているのですが、この「課題オリエンテッド」な姿勢は、将来的にはメタバースそのものについても大事なものになるとわたしは感じました。
つまり、「何ができるかわからないけど、とりあえずメタバースを使ってみよう」というアプローチから、「やりたいことがあって、そのための方策を考えていたら、メタバースが見つかったので使ってみる」というアプローチにいずれ変わっていかなければならないと思うのです。
(とはいえ、黎明期の現段階では、メタバースで何ができるかを知るため、メタバースの可能性を探るためにまずは試してみるという「技術オリエンテッド」な姿勢をとらざるをえませんが。)
続いて、レビューのタイトルに掲げたゲーム「ポケモンGO」の話に移ります。
ポケモンGOがどんなゲームかについては、少なくともこのブログをお読みになっているかたはご存じだと思うので、割愛します。
わたしがポケモンGOのことを思い出したのは、本書のこの箇所を読んだ時です。
以上、マクゴニガル氏が指摘するように、ゲームだけが持つ重要な役割があるとするなら、その役割をそのままメタバースに適用することも可能ではないだろうか。そこで重要になるのは、人と人とのつながりであり、「人のために何かをしたい」と思う気持ちが働くメタバースを作っていくことだ。
この「人のために何かをしたい」と思う気持ちが働くシステムが、ポケモンGOにもいくつか導入されていることを思い出したのです。
ポケストップ候補の申請・審査(Niantic Wayfarer)、ARスキャンタスク(ARマッピングフィールドリサーチタスク)、そして最近実装された「ルート」の作成です。
ポケストップが増えれば、アイテム補給場所が増えるという恩恵をポケモンGOプレイヤー全体が受けることができます。
しかし、ポケストップ候補の申請には写真撮影や説明文の提出という労力をかけることが必要で、審査は審査で1件1件候補を精査するのに頭を使うようです。
ARスキャンは、ポケモンGOへのARマップの導入に役立てられると言われています。 いつの日か、ポケモンGOにポケストップやジムが表示される3Dマップが導入される日が来るのです。*5
しかし、ARスキャンタスクは、まじめにやろうとすると対象物(ポケストップになっている像など)の周りをスマホを掲げて回らなければならず、面倒なだけでなく周りの目が少し恥ずかしいです。
ルート機能は、先月(2023年7月)正式実装されたばかりの機能です。
ルートを探索すると、伝説のポケモン「ジガルデ」の姿を変えるために必要なジガルデ・セルが見つかることがあります。
ジガルデ(10%フォルム)からジガルデ(50%フォルム)へのフォルムチェンジにはジガルデ・セルが50個、ジガルデ(50%フォルム)からジガルデ(パーフェクトフォルム)へのフォルムチェンジにはジガルデ・セルが250個必要なので、トレーナーは300回以上ルートを探索しなければならなさそうです。
このため、歩きやすいルートの作成が肝になります。
ルートの作成は、スタート地点にするポケストップまたはジムを選び、ルートを自分の足で歩いた後、ルートについての情報を入力する(詳細を手入力するほか、ポケストップ豊富、雨天に良い、などのタグを付けることが可能です)、という手順で可能です。
要するに、この3つはどれも面倒です。
にもかかわらず、これらの機能を使ってポケモンGOコミュニティのために貢献してくれる人がいるのは、「人のために何かをしたい」という気持ちが皆にあるからなのだと思います。
(ただし、ARスキャンについては、現在のところ3Dマップがまだ導入されていないため、自分が貢献してもその結果が見えません。そのために「やる気が出ない」という人もいるようです。*6)
とはいえもちろん、自分にとっても得だから、という動機はあるはずです。
近所にポケストップが増えれば、アイテムが得やすくなって自分が得をするのは自明のこと。
ルートも同様で、近所にルートが増えれば、まずは自分がジガルデ・セルを得やすくなります。
ポケストップの審査については、審査を一定回数以上こなすと、自分が申請したポケストップの審査を優先してもらえるというメリットが存在します(アップグレード)。
ARスキャンタスクについては、完了するとポフィンという課金アイテム(1個100ポケコイン*7)がリワードとしてもらえます。
で、ですね。
わたしが強調したいのは、このゲーム内リワード目当てに暴走してしまう人もいるということです。
今年の2月、ARスキャンタスクについて、Nianticの公式サポートアカウントからこんなツイートがありました。
トレーナーの皆さん、ARスキャンのタスクの変更により、以前品質の低いARスキャンを提出したことがある場合、ARスキャンのタスクを受け取れなくなります。高品質なARスキャンの方法につきましては、こちらをご覧ください。#ポケモンGOhttps://t.co/V8AxGLVGKm
— @NianticHelpJP (@niantichelpjp) 2023年2月14日
品質の低いARスキャンとは何か、巨大掲示板5ちゃんねるから書き込みを引用させてください。
【NIA】ポケモン GO Lv.1886【ポケゴ】
https://krsw.5ch.net/test/read.cgi/pokego/1683433101/626626 ピカチュウ (ササクッテロ Sp3f-A2Fc [126.33.232.90]) 2023/05/09(火) 17:35:58.71 id:FEFX6Uiwp
ARバンされてたけどARタスク出てきたわ
また運転席や地面のデータ送ったろ
そう。
ARスキャンタスクは、本来ポケストップやジムの対象物(像など)を動画撮影するものですが、横着して「運転席や地面」を撮って送り、リワードをネコババしていた人がいたのです。それもきっと、わざわざBANしなければならないくらい、たくさん。
「重要になるのは、人と人とのつながりであり、『人のために何かをしたい』と思う気持ちが働くメタバースを作っていくこと」。
ポケモンGOはメタバースではありませんが、この「人のために何かをしたい」と思う気持ちを使ったシステムが重要な点は変わりありません。ポケストップやジムは、申請・審査をする人の奉仕精神がなければ、ここまで増えなかったでしょう。
しかし、奉仕精神だけでは人は動きません。だから、ゲーム内リワードが必要です。しかし、リワードを設定すると、リワードを得るために不正をする人が出てきて、ゴミデータも生まれてしまうのです。
メタバースにおいて「人のために何かをしたい」と思う気持ちを働かせて人を動かすためには、ポケモンGOのARスキャンタスクの事例を参考に、リワードと不正に対するペナルティを適切に設定することが大事だと思います。
ブクログにも投稿しております。 https://booklog.jp/users/yulinyuletide/archives/1/4296112422
*1:メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤 | 久保田 瞬, 石村尚也 |本 | 通販 | Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4296112422/
*2:pp.244-249 Chapter5 メタバースの始め方「3つのステップ」 1 「体験」なくして、ビジネスは語れない
*3:p.32 Chapter1 結局、メタバースとは何なのか? 「3つの誤解」を読み解く 2 メタバースは普及しない?「3つの誤解」 誤解2 NFT、Web3=メタバース
*4:p.43 Chapter1 結局、メタバースとは何なのか? 「3つの誤解」を読み解く 3 メタバースはゲームが通った道を歩む?
*5:ナイアンティックは、ついに「ポケモンGO」にARマップを導入。“惑星規模のAR”に一歩 - Mogura VR News https://www.moguravr.com/niantic-ar-map/ 2020.05.27
*6:【NIA】ポケモンGO Lv.1851【ポケゴ】
https://krsw.5ch.net/test/read.cgi/pokego/1676191102/
0348ピカチュウ (中止W 5e4d-QkLd [153.176.156.75])2023/02/14(火) 13:24:17.53ID:RIndu4SX0St.V
そもそもスキャンしたARが何に使われてるか一切分からん
マップ上で3Dの建物が出てくるなら協力するのにその気配すらないからやる気出ない
*7:いつのまにかレイド報酬としてまれに手に入るようにもなりましたが。
*8:@NianticHelpJPさんはTwitterを使っています: 「トレーナーの皆さん、ARスキャンのタスクの変更により、以前品質の低いARスキャンを提出したことがある場合、ARスキャンのタスクを受け取れなくなります。高品質なARスキャンの方法につきましては、こちらをご覧ください。#ポケモンGO https://t.co/V8AxGLVGKm」 / Twitter https://twitter.com/niantichelpjp/status/1625298950256222208 2023年2月14日