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Pokémon GOのAR写真とか。アニメの感想とか。たまに難しいことも。不思議ちゃんの新婚生活13年目@東京をまったり記録。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」は実は社会派作品!?(小説のほう・ネタバレありレビュー)

Coccoさんが映画に出演するということで、3月の映画公開が待ちきれず読んじゃいました(*^-^*)

 

映画のキャッチコピー「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ」から、きっと心洗われるストーリーなのだろうと予想していましたが……

 

読みふけっているうちに気がついたら、「これ、山崎豊子系の社会派小説なんじゃないですか」って思うぐらいに、現代の社会制度の課題について考えさせられていました。

(あ、モデルになっている事件があるわけじゃないから山崎豊子系じゃないですね。何系って言えば通じるかな? あんまり小説読んでなくて思い浮かびません(泣))

 

 

なんでかって、主人公の七海の行動(特に前半の)がどれもこれも迂闊すぎて、彼女がどんどん不幸になっていくのが居たたまれなくなるんですよ。

最終的に、七海は真白という愛情深い女性に出会って成長することができたけれど、これはいわば小説という夢物語だから起こりえた幸運な偶然で、現実に七海のような境遇に陥ると多くの人が人生スーパーハードモードから這い上がれなくなっちゃうのではないかと思うんです。

 

ブクログAmazonのレビューを見る限り、「なんだかんだで幸せに泣けてくる。元気が湧いてくる。」「すごく弱くてネガティブだった七海がどんどん強く逞しくなっていく姿は清々しかったな。」といった感じの感想を抱いているかたが多いようなので、わたしの読み方はたぶん特殊なんでしょうね(^-^;

 

以下、もっと詳しく書きます。

 

 * * *

 

 

 

七海の行動で迂闊だったと思うものを箇条書きにしてみるとこんな感じです。

 

1.離婚家庭であること、仕事を辞めたことなどの重要事項を婚約者に伝えない。結果、嘘を嘘で重ねることになる。(第五章、第六章)

2.自分の不安や不満を婚約者・夫に伝えず、代わりにSNSに書き込む。しかも、婚約者・夫に知られたら傷つけるであろう内容なのに、公開設定のまま。(~第九章)

3.見知らぬ男が自宅に来たとき、家のなかに入れてしまう。(第九章)

4.見知らぬ男に呼び出されるままひとりでホテルの個室に入る。(第九章)

5.夫の浮気をばらすと脅迫されたり、強姦されそうになったり、浮気の濡れ衣を着せられて離婚させられたりしたときに、警察や弁護士などの専門機関に相談しない。(第九章・第十章)

 

いっぱい挙げちゃいました。どれだけ主人公をdisってるんだ、って感じですね。

 

 

ただ、わたしは七海をバカにしているわけではないんです。

なぜなら、七海が特別に迂闊な人間というわけではなく、こういうミスは誰にでもありえるはずだからです。

つまり、七海の迂闊さはいまの日本社会の課題を反映しているのではないか、と思うのです。

 

 

まず、1.について。

七海が嘘をつかなくてはならなくなった理由は、大きくふたつあると思います。

 

ひとつは、コンプレックスを抱かなくていいはずのことを過度に気にしてしまったこと。

離婚家庭であることも、婚約者とネットで出会ったことも、いまの日本ではよくある話。なのに、七海は「ネットで知り合った彼と、両親が離婚したと話した途端に連絡がとれなくなった」というネットの投稿に怖れをなしてしまった。

確かに、離婚家庭に偏見を抱く人はいるでしょう。これが現代日本の課題です。「式場に持ち込めるものは実はものすごく限られている。理想的な家庭。理想的な家族。それに該当しないものはご遠慮ください。」(第六章・p79)でも、間違っているのは偏見を抱くほうであって、七海は堂々としていてよかったはずなのです。

 

もうひとつは、職を失っていたために、婚約者を失うことを過度におそれていたこと。

派遣は使い捨て、じっくり育ててなんてもらえない。新卒一括採用であぶれると途端に人生ハードモードになってしまう雇用環境。そんな課題を突きつけられます。

(ちなみに、離婚家庭だと打ち明けたことが理由で婚約破棄されたとしたら、慰謝料請求できるような気がするんですが、いかがでしょう。もし七海がこういう法的知識を持っていたら、嘘をつかないで済んだかもしれません)

 

 

次に、2.について。

専業主婦になる(お金の面で夫に依存する)からといって、夫に文句を言ってはいけないということはないのに、そう思い込んで我慢していたようにも見えます。だとすると、七海はジェンダーバイアスの被害者です。

 

そして、七海はSNSの怖さを知らない! インターネットは匿名空間では全くなく、あっというまに本人特定されてしまうリスクがあるのに! SNSだからバレないなんてありえないのに!

七海は22歳ということですから、学校で情報教育は受けているはずなのですが……。このごろ炎上事例が後をたたないところをみても、ネットで情報発信する責任について教育が足りていないのではと思わざるをえません。

 

 

3から5についても教育の問題と言えるかもしれません。

自宅にしてもホテルの部屋にしても、トラブルの相手方(しかも見知らぬ男)と密室でふたりきりになるなんて絶対にNGですよ。ベストなのは弁護士などの専門家に相談して指示を仰ぐことだと思いますが、そこまで思い至らなかったとしても、会うのであれば信頼できる人と一緒に、喫茶店など周りに人がいる(とっさの時に助けを求められる・逃げられる)場所で、会話を録音しながら……などなど色々と注意したほうがよさそうな点が思い浮かびます。

 

小学校のレベルでは防犯教育がかなり広まっているようです。たとえば東京都は10年ほど前に「いかのおすし」という標語を新しく作ったようですね。

でも、大人になってから、トラブルを回避するためにどうするか、あるいはトラブルに巻き込まれたらどこに助けを求めたらいいのか、思い返してみると習ったことがないような気がするんです。

わたしはたまたま大学で法学部の教育を受けたので、トラブルがあったら弁護士に駆け込めば助けてくれると知っていますが、恥ずかしながら大学に入る前は弁護士って何をやっている人かも知らなかったので、他にもそういう人って多いんじゃないかと思います。

 

 

七海の問題はここまでにして、次に真白の話をします。

 

真白がなぜ孤独を抱えていたのか、一言で言い表すことはできません。そんなことをしたら冒涜的だとも思います。

でもあえてひとつ指摘するなら、AV女優(ポルノ女優)という仕事が社会的に許容されていなかったことが背景のひとつにあるんじゃないかと思うのです。そのせいで母親(珠代)から縁を切られてしまったのですから。

でも本当は、珠代はずっと真白のことを心配していたんですよね。珠代が真っ裸になって泣くシーン(第二十一章)は震えました。もしポルノ女優が「まわりが迷惑」するような仕事でなかったなら、珠代は真白を受け容れられていたんじゃないかって……。

 

 

昨年末におっぱい募金が話題になったときにも似たようなことを考えていました。

 

おっぱい募金とは、ある番組の企画で毎年行われている、募金をすると女性(AV女優さんだったそうです)のおっぱいを揉めるというチャリティーイベントです。

昨年末、おっぱい募金が話題になったのをご記憶のかたなら、賛否両論様々な意見があったことを覚えていらっしゃることと思います。

おっぱい募金廃止を求める署名運動まで起こっていたんですよね。

 

この署名運動に対して批判をしているある弁護士さんが、こうおっしゃっていました。

私は、おっぱい募金廃止を求める署名運動が、AV女優さんを独立した人格として尊重せず、その意思、自己決定権に関心を持たずに、盛り上がっていることに大いに疑問を持ちましたし、その疑問は、今でも持っています。」(https://twitter.com/otakulawyer/status/677528220594397188

(詳しくは「件の募金運動について、山口貴士弁護士との語らい(全面改定版) - Togetterまとめ」http://togetter.com/li/913981をご参照ください。)

 

真白はAV女優の仕事に誇りを持っていました。それこそ命を懸けて。

 

なのに世間の人は、性的な仕事に対しては平気で後ろ指を指します。

おっぱい募金廃止を呼びかけるかたは、性的な仕事に従事する女性たちを非難するつもりはないのかもしれませんが、山口弁護士の指摘する通り、彼女たちが自分の仕事に誇りを持っているのか、それとも本当に嫌がっているのか、そこには全く関心を払っていないのです。

 

 

でも。

AV女優の誇りを尊重しろ! AV女優の仕事をもっと正面から認めろ! って簡単に言えないことはわかっています。

従業員が誇りを持って自ら進んでしているならば、どんなにキツイ仕事でもさせていい……なんて認めたら、世の中はブラック企業ばかりになってしまいます。

労働者はどうしても立場が弱いので、職を失いたくないばかりに、雇用者に逆らえず"自ら進んで"キツイ仕事(AV女優、長時間労働サービス残業など)をやり続けることが往々にしてあるからです。それを防ぐために労働基準法などの弱者保護のための法律があるわけですね。

 

 

でも。

それじゃ第二・第三の真白はいつまで経っても救われない……。

 

 

七海も、真白も、この物語では救われました。

けれど、いまの日本には救われていない七海や真白がたくさんいるんじゃないか。その人たちにわたしは何ができるんだろう。

 

そんなことをたくさん考えさせられた作品でした。

 

 

 * * *

 

最後に。

 

この小説を読んで、ふだん自分がいかに狭い世界で生きているかということに気付かされました。

「あむろゆきまーすっ!」(言うまでもありませんがガンダムネタです。第六章p.72)がわからない22歳がこの日本にいるなんて! って。

大学でも職場でも、オタクか、オタクじゃなくてもアニメや漫画にある程度親しみを持っている人ばかり周りにいたので、今でも信じられません。今どきいないよそんな若者、岩井監督の勝手な妄想でしょう(笑)

と最初は思ってたんですが、よく考えたら、わたしの周りにオタクばかりいるのって、ただの”類は友を呼ぶ”ですよね。きっと、人間誰しもどうしても自分と話の合う人としか付き合わなくなっちゃって、自分の価値観が絶対だと思うようになっちゃうんですね。

 

あと、七海が性的なことに強い抵抗感を抱いている(たとえば、第二章p23「風俗! そんな想像を? 父が娘に対して?」「それから、しばらく父とは話す気になれず」のところ。そういう心配をするのは親として普通ではないか、なぜショックなのだろう、としばらく考えこみました)のも、今どきいないよこんな人、ってうっかり思ってしまいました。

こちらは本当に反省しないといけないです。こんな感覚のままでいたらいつかセクシュアルハラスメントの加害者になってしまいます。