「さいばんぼうちょうしてきたー」
「そのうち破裂するよ」
友人とメッセでこんな会話してました。こんにちは、ゆーりんです。
もちろん裁判膨張・・・ではなく傍聴です。
ゼミの講師の先生(弁護士さん)が担当なさってる事件の法廷傍聴です。
とっても興味深い裁判でしたので、自分で整理するためにブログの記事にしてみることにしました。
興味がおありでしたらどうぞ^-^;
中に発言録などがあるのですが、素人が書き取ったものですので、ミスもあるかもしれません。
ご指摘があればコメントでお願いします。
まず、民事事件の裁判手続きの流れを見てみました。
(参考:裁判所ホームページhttp://www.courts.go.jp/saiban/syurui/minzi/index.html)
民事訴訟の審理手続
(1) 手続の開始 -訴えの提起
ア 訴えの提起
イ 管轄
(2) 口頭弁論等
ア 訴状の審査等
イ 口頭弁論
ウ 争点及び証拠の整理手続
エ 証拠調べ
口頭弁論又は争点及び証拠の整理手続において,当事者間の争点が明らかになれば,その争点について判断するために,裁判所は書証の取調べ,証人尋問,当事者尋問等の証拠調べの手続を行います。
オ 口頭弁論調書
口頭弁論については,立ち会った裁判所書記官が調書を作成しなければなりません。調書には,法廷で行われた証人,鑑定人,当事者本人の陳述のほか,当事者の主張や証拠の提出を記載し,裁判所書記官が記名押印し,裁判長が認印をしなければなりません。
(3) 訴訟の終了
典型的な手続きの終了事由…判決,訴えの取下げ,請求の放棄・認諾,裁判上の和解
(4) 判決に対する上訴 -控訴と上告
第一審裁判所の判決に不服のある当事者は,判決送達日から2週間以内に上級裁判所に対して控訴をすることができ,第二審(控訴審)裁判所の判決に不服のある当事者は,上告をすることができます。
不服申立期間が経過すれば、確定判決となり、判決に執行力が生じます。
今回傍聴したのは、証人尋問・当事者尋問にあたるところ…だと思います。
東京地裁に行ってきました。荷物のチェックがあったんですが、空港の手荷物検査のときと同じような機械が見えて、気圧されました(^-^; 。日本全国でも裁判所で荷物チェックがあるのはここだけみたいですね。
事件の概要は・・・
「大学卒業し就職した年の12月に自殺した若い営業マンの事件。
労災と認定するか否かが争点。
長時間労働やストレスがテーマとなっている。」ご遺族が国を相手取って起こした裁判です。営業マンさんの自殺は労災ではないから遺族補償給付は支給しない、という国の処分の取り消しを求めています。
被災者の父親、原告側(=被災者側)の精神科医師、被告側(=国側)の精神科医師が証言を行いました。
父親は当事者として(亡くなった営業マンさんご本人として)、医師らは証人として証言をしています。
なお、これ以前の段階で、営業マンさんが月100時間を超える時間外労働・月に8回もの深夜労働についていたことを国側も事実として認めています。
また、労働基準法に違反しているからといって必ずしも即・労災になるわけじゃない…というのが世間の常識としてあるようです。ヤワなバイトしかしてない小娘なので知りませんでした…(汗)
まず父親の証言から。
原告側弁護士からの主尋問、被告側弁護士からの反対尋問が続けてありましたが、息子さんの様子がおかしくなった時期、亡くなった前日に会ったときに疲れきった様子だったことなどの証言の確認が主で、特に争いもなく終わった印象を持ちました。
原告側の精神科医師の証言……がかなり長かったですね。裁判官にも途中で「時間がないので…と促されていました。
おふたりの精神科医からはあらかじめ意見書が提出されており、その意見書のなかの様々な箇所が、証拠として尋問の間に何度も示されていました。
まず、原告側弁護士からの主尋問。
原告側の先生によれば、営業マンさんの自殺の原因はうつ病と考えられる。そして、長時間労働(月100時間以上の残業)はそれだけでうつ病の原因になりうることを主張しておられました。その根拠はさまざまな国内・海外の研究の蓄積、だそうです。厚生労働省に先生ご自身が依頼された全国規模の研究でも、長時間労働が100時間以上かどうかで有意の差が出ているとか。
長時間の残業があったことを認めていながら長時間労働とうつ病との因果関係を否定する労働基準監督署は自己矛盾を起こしているのでは、とのことでした。
反対尋問で被告側弁護士が中心に据えていたのは睡眠時間不足です。
「長時間労働による睡眠時間不足が発症原因になる」という資料の文言を取り上げて、これは長時間労働ではなく睡眠時間のほうがうつ病の発症原因として重要だということを示しているのではないか。
睡眠記録表がないから、睡眠時間が不足しているとは限らないのでは(被災者は独身男性だから、帰宅してから寝る前までの所要時間は少ないはずだ)。などと質問していました。
これに対して精神科医の先生は、常識で考えてお風呂や食事の時間があるはずだ…などと答えていましたが、裁判官から「お互い推測の域を出ないので、次の質問に行ってください」と止められていました。
ここで15分ほどの休憩をはさんで、被告側精神科医の証言へ移ります。
まず、被告側弁護士からの主尋問。
「ストレス-脆弱性」理論(ストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても破綻が生ずる)によって立ち、被災者の性格上の脆弱性がうつ病の原因となっていると精神科医さんは主張しています。
被災者の性格上の脆弱性は、主として遺書の「他の人と合わせるように生きてきた」などの文言から読み取っているようです。
自殺前に被災者が起こしていた顧客とのトラブルなどは、会社からのペナルティもなかったし上司とのトラブルに比べればストレスは弱いような印象を持っているので、客観的なストレス強度を見れば標準~軽いに過ぎない、などともおっしゃっていました。
つまり、恒常的な長時間労働があったとしても、客観的なストレス評価は弱中強の「中」にすぎず、個体側の脆弱性がある以上、被災者のうつ病は業務外のものである…というのが結論のようです。
次が今日の裁判のクライマックス・・・原告側弁護士からの反対尋問です。ここが非常にドラマティックo(>▽<o)だったんですよー。(ひとがひとり亡くなっている事件でこんな顔文字使うのも不謹慎なのだとは思いますがね…)
たとえば。
弁護士「ストレス強度がIIでも、それが複数並んでいたら加重性があって、総合的なストレス強度は高くとは考えられませんか。
海外の疫学的研究論文には、心理的負荷の項目が同時期に複数あったら総合的な負荷は重くなると書かれているものもありますよ。また、全国で争われている労災認定の裁判のなかには、複合的な負荷要素があった場合には総合的な評価をすべきという判決が増えていることを知っていますか」
精神科医「知りません。自分は臨床畑だから論文は読んでいないし、重くなるかどうかは一般論でも争えないんじゃないですか…」
そして。
弁護士「ノルマの達成ができなかったことは、客観的なストレス強度がIIIではなくIIだと証人はおっしゃっていましたが、『判断基準※』には、『たびたびの深夜労働はそれ自体で心理的負荷となる項目全てにおいて上方修正の必要をもたらす』とありますよね。ご存知でしたか」
※平成11年に労働基準局が出した「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」
精神科医「わかりませんでした」
弁護士「あなたは『判断指針』が妥当だと意見書に書いていますよね。当然内容を知っているものではないんですか?」
つまり、彼は実は「判断指針」をちゃんと読んでおらず、わからないことだらけだった、それなのにそれに基づいて意見書を書いていた…ということを弁護士の先生は明らかにしていったんですね。
お医者さんがどんどんしどろもどろになっていて…ちょっとびっくりしました。
…まあ、こんな感じで。
弁護士からの尋問が終わった後で、裁判長がじきじきに精神科医さんに質問していらっしゃったんですが・・・
裁判長「今の尋問で出た加重性などの新しい事実を考え合わせても、やはり業務による心理的負荷の総合評価は『中』のままなんですか」
精神科医「……はい」
裁判長「その判断の根拠は、遺書からよみとれる性格の脆弱性以外に何があるんですか」
精神科医「『判断指針』です」
裁判長「あなたは矛盾していませんか。原告側弁護士が示した深夜労働の話を知らないといっていましたが、それを踏まえた上での修正はしたんですか。」
精神科医「……」
裁判長「指針には基づいてないのではないかと聞きたくなってしまうんですよ」
法廷内ですら失笑をリアルに誘ってしまっていたんですよ…(汗) 珍しい事態らしいです、さすがに。
これで今日の裁判は終わり。口頭弁論調書があがってくる(8月中ごろ)のを待って、次の法廷は10月前半に開かれるそうです。日時を決めて終わりでした。この、次の法廷で結審になり、年内か年明けすぐあたりには判決が出るのでは、とのことでした。
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あとは感想と、原告側弁護士さんからのお話について書きますね。
帰宅してから寝る前の所要時間・自由時間の話をしていて傍聴側が気になったのは、被告側は「仕事して、帰ったら寝て、朝仕事行って、帰ったら寝て…」の繰り返しだけの生活をしろと言っているのか、そんな無茶な!ということでした……。
それと…お医者さんって、臨床医でも論文読んだり学会出たりしてるものなんじゃないんですか?
あの被告側精神科医さん、ある県で「この精神疾患は業務上のものですよor業務外のものですよ」という判断を下す権威を持っていらっしゃるそうなんですが。論文も判決も知らないそうなのに。ちょっと。。。どうなんでしょう。
そして、原告側弁護士が被告側を詰まらせてしまった要因について、弁護士さんから意気揚々とした感じでコメントをいただきました。
いわく、証人尋問の頃は、裁判官たちもそろそろ判決を書かなきゃと思って真剣になり出す頃なのだそうです。
だから、裁判が始まる前から証人尋問の頃を見据えて駆け引きを行っているんだそうです。
今回のように相手の無知をつこうとするなら、相手方の論に欠けているところを見つけても、あえて証人尋問まで指摘せずにおくのが、弁護士の長年の経験によるテクニックのひとつなんだとか。
尋問したいことはいくらでもあった(今回のケースでは、遺書の信頼性について、など。弁護士の先生は、反対尋問の中で「うつ病患者が書いた遺書にはうつ病の症状としての自責感が強く現れていても不思議ではない」ことだけは指摘しておられました)けれど、水掛け論・見解の相違で終わってしまわない論点に絞ることが肝要なのだそうです。
国に控訴されないように、勝訴するなら徹底的に勝訴したいんだそうです。
労災と認められれば、家族の気持ちは「自殺」よりもずっと落ち着くはずです。そのメリットは遺族補償給付金の額におさまらない、図りきれないものだとか。
新入社員の過労自殺のケースって多いらしいです。まだ仕事に慣れていないから、ベテランよりもストレスを強く感じてしまうのが当たり前ですよね。そこまで「個体側の脆弱性」「主観的な問題」と言い切られてしまっては妥当ではないと思います。
以上、長文ですが読んでくださってありがとうございます。ご指摘ありましたらお願いします。
最近ちょっと凹み気味でしたが、裁判傍聴で元気になりました(笑) 弁護士っていう職業、やりがいありそうだなぁと。法律の勉強がんばりますよ!!!