1月から連続公開されている3部作映画『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』。
本日3月8日(金)、ついに最終作の『Case.3 恩讐の彼方に__』が公開されました。でも、わたしのように土日まで観に行けないかたも多いのではないでしょうか。
そこで今日は、Case.3に向けて気持ちを高めていくために、Case.1とCase.2を振り返ってみることにします!
(なお、筆者はアニメ第1期・第2期・劇場版を視聴済みですが、小説や漫画のメディアミックス作品は読んでおりません。)
まえがき:SS3部作はPSYCHO-PASS続編への布石だと信じている!
Case.1の主役はギノさんこと宜野座伸元と霜月美佳。
Case.2の主役は須郷徹平ととっつぁんこと征陸智己。
このメンツを見た時に直感しました。
このSS3部作は、いまいち人気の伸びていない霜月さんと須郷さんの魅力を掘り下げてファンを作るために作られたのではないか。
そして、なぜそんなことをするかと言えば、PSYCHO-PASSは実は続編を予定しており、その新シリーズで美佳ちゃんと須郷さんを活躍させるための布石を打っているのではないか、と。
この直感は、まずCase.1を観た後で強い願望に変わりました。
第2期でも劇場版でもただただムカつくキャラだった美佳ちゃん*1は、頭脳面でも活躍するし、感情面でも劇中で成長してるし、初めてこの子を応援したくなったんですよ。
続いてCase.2では、とっつぁんの古き良き刑事(と書いてデカと読む)ぶりももちろん格好良いのですが、須郷さん……! とっつぁんから「正義と信念」を受け継いだのはギノさんだけではなかったのですね。
霜月さんと須郷さんは、(本格的な)登場時期がアニメ第2期からで他の主役級キャラよりも遅いです*2。
また、第2期と劇場版の評価が第一期と比べると微妙なこともあり*3、霜月さんは完全なる嫌われ役、須郷さんは影が薄いという可哀想な状況になっていたように思います。
制作者サイドからは霜月美佳は愛されキャラらしいんですが、視聴者側からしたらどうだったんでしょう。
霜月役の声優さんでさえ「霜月が主役というだけで興行収入が落ちるんじゃないですか?」とジョークとは言え心配していたようですから。
「霜月が主役というだけで興行収入が落ちるんじゃないですか?」と塩谷監督を前に茶目っ気たっぷりなコメントも。
これに塩谷監督は「大丈夫、宜野座がいるから」とフォローを入れつつ、「作っている側からすると、霜月は愛されキャラ」とコメント。「霜月がいることで話が回るんですよ。話の展開やドラマが作りやすい」とそのキャラクターの特性を説明した。
野島健児&佐倉綾音、 劇場版『PSYCHO-PASS サイコパス』完成に感慨「すごい作品になっている」 | マイナビニュース
2019/01/26 09:00:00
https://news.mynavi.jp/article/20190126-762171/
でも、これでもう須郷さんは影が薄いと言う人はいないでしょう。
美佳ちゃんが嫌いな人はまだいそうですけど、ただの無能キャラだとは言えなくなったのではないかと。朱ちゃんと比べるからアレなだけで。
ということで、SS3部作は美佳ちゃんと須郷さんの好感度を上げて続編につなげるために作られたと、わたしは固く信じております。
新シリーズはよ!!
Case.1感想:シンプルな勧善懲悪劇で楽しむ美佳ちゃんとギノさんのかっこよさ
ようやくスポットライトの当たった美佳ちゃんの魅力
ギノさん目当てで観に行ったんですが、前述のとおり、意外にも霜月美佳が魅力的でした。
予告編にも登場する「ここで退きさがったら、公安局刑事課のエース、霜月美佳の名が廃る!」のセリフを代表とした小物感と、悪役のおばさんをやり込める有能さのバランスが良い感じなんですね。
第2期と前作の劇場版では前者の小物感ばかり強調されていたので……。
本作を観るまでは、美佳ちゃんは潜在犯には容赦ないものと思っていました。
実際、本作でも最初の車の暴走事件では「潜在犯がどうなろうが自業自得」といった感じのセリフを吐き捨てています。
でも、夜坂に対する態度が柔らかくなっていく様子、ラストの辻飼(以下、「おばさん」という)への糾弾を見て、彼女が決してそんな単純な思考をしているわけではないのかわかりました。
潜在犯を使い捨ての道具としか思っていないおばさんとの対比。
第1期・第2期・劇場版のいずれでもネームドキャラで潜在犯から更生して社会復帰した人が登場していないので忘れがちですが、シビュラシステムの下でも更生・社会復帰はありえるんですよね。
だとしたら、シビュラを信奉する美佳ちゃんが更生可能性のある潜在犯をぞんざいに扱えないのは道理なわけです。
もしかしたら、美佳ちゃんも本作の劇中で初めて、潜在犯も更生可能性のあるひとりの人間だと実感したのかもしれません。
夜坂の不可解な行動の理由は子ども(武弥くん)を守るためだとわかったあの時に。
あとは、ギノさんのことを尊敬するようになったんじゃないかととれる描写もありましたね。
だとすると、本作は美佳ちゃんが潜在犯をひとりの人間として尊重するようになるまでの成長劇でもあると言ってよいかもしれません。
霜月監視官の行動指針はシビュラシステムによる秩序の安定という「正義」。
潜在犯に対して厳しい態度をとるのは、あくまで正義を守るため。
シビュラシステムの問題点を知る視聴者目線では、それが滑稽に映ってしまうのですけれど。
あとは、常守センパイに勝ちたい出し抜きたいという焦りと苛立ちを隠さないのが彼女が狭量に見える一因でしょう。
だからこそ、Case.2冒頭で「私はいつでも一係のことを一番に考えているから」と常守センパイに言われた時に美佳ちゃんがほっとしたような笑顔を見せるのが、ひどく印象的でした。美佳ちゃんも実は常守センパイに信頼を置いているんだな、と。
完全なるギャップ萌え。
美佳ちゃんの逆転裁判のカタルシスと恐ろしさ
本作の見所は色々ありましたが、わたしが最も好きなのは、美佳ちゃんがおばさんのヤバすぎる発言の録音を潜在犯たちに聞かせて大逆転をかますクライマックスです。
おばさんとオッサン(ロジオン)は登場から退場まで典型的な悪役を貫きます。
セリフがいちいち悪役のそれです。内容も言い回しも。登場時は人を食ったような口調で、地下の秘密を暴かれた時にはムスカ大佐さながらの堂々さ。
悪役が自滅する展開は王道中の王道ですが、美佳ちゃんによる逆転裁判のカタルシスは本当に気持ち良く、そりゃこれが王道になるよなと実感しました。
美佳ちゃんによる糾弾によって、潜在犯たちの“敵”が一瞬でガラッと変わるシーンは、視覚的にもとても恐ろしかったですね。
集団思考は風の流れが変われば容易に敵を変え、一斉に牙を剥く。あの時、サンクチュアリが一気に赤に染まったように。
ブレザー後藤 @g0hidA
潜在犯に付けられた腕輪(サイマティックスキャナー)が一斉に赤に変わる演出は痺れた。
13:35 - 2019年1月25日
https://twitter.com/g0hidA/status/1088656630663700480
集団思考と集合的サイコパス。やっぱり第3期に期待。
ただ、アニメシリーズ(特に第1期)ほど深く考察する人は出てこないんじゃないかと思います。
集団思考は怖いですね、で終わってしまうのかな。すぐれた現代風刺ですが、答えの出ない問いとまではいかなさそうです。
1時間の短編映画ではやはり限界があるんですよね。
Case.1はそのあたり割り切った作り方をされているのではないかと。
悪役は全員ひとめで悪役とわかる外見をしているし、ストーリーは正義の味方が女子供を救って悪役が自滅して終わるという王道中の王道の展開。
話の流れはとことんわかりやすくするので、ギノさんと美佳ちゃんの成長ぶりを存分に見てくださいね、という意図なんだと思います。
だからこそ!
きっと第3期が来るんじゃないかと期待するわけです!
「集団思考」の概念は第2期で提示された「集合的サイコパス」と切っても切り離せない関係にあるはずですから、今回の話も絶対掘り下げられると思うんですよ。
3期やるんでしょ? やるんでしょ!??
その他とりとめのないCase.1の感想
本作で初めてMX4D上映を体験しました。
結構椅子が前後に揺れて、首を痛めるかと思いました。笑 ポップコーンとかこぼれないのかな……。
ヘリコプターで移動する設定にしたのはMX4Dありきなのではないかと邪推。
烏間邸の夕暮れの朱に染まる枯山水の庭の情景、2019年の現在にあってさえ過去の遺物となっている固定電話のコードを弄ぶ手は印象的でした。
あれは何かの比喩なのでしょうか。
玄沢と六合塚のレズシーンは誰得なんです?
Case.2感想:傑作。観るべき。以上。
とっつぁんが出てくるだけで古き良き刑事ドラマになる
次にCase.2ですが、観る前はちょっと不安だったたんですよ。
というのも、Case.1はキャラ萌え的な要素で持たせていた印象があったためです。ギノさんかっこいい! 霜月意外とかわいいじゃん! という。ストーリーが良くも悪くもわかりやすいものだったので。
それで、Case.2の堅物な須郷さんととっつぁんでキャラ萌えアニメは難しかろうと。
実際に観て土下座したくなりましたよ。ほんと。
申し訳ございませんでした!
Case.2は傑作の正統派刑事ドラマでした!!
だんだんと伏線を回収し謎が解き明かされていく興奮。予想を裏切られた時の快感。
たとえば、大友が2人いると判明した時に「もしや1人はスパーリングロボでは」と思いついて嬉しくなってからの「2人ともロボでした!」には唸りました。
征陸さんが一言しゃべるだけで場の雰囲気がガラッと変わる、征陸さんが会話のペースを全部持っていくも刑事ドラマっぽいな、と。
『踊る大捜査線』の和久さんを彷彿とさせます。
飄々とした雰囲気。
そして、ふだんは飄々としているからこそ、その彼の激昂はとても印象強いものになりました。
「俺は潜在犯なんだ。その俺が妻子に手を出されたら何をするかわからないぞ」*4
征陸さんが潜在犯堕ちした背景については、シビュラシステムの導入により多くの刑事が潜在犯認定されたなかの一人だとしか説明されていません。
ですが、妻子に手を出されたら何をするかわからないという“暴力性”が彼の犯罪係数悪化のひとつの要因なのだとしたら……。
とても人間らしい怒りなのに。
その他とりとめのないCase.2の感想
征陸さんのラストの台詞「機械の命令で人を撃つだけの仕事になっちまったが、それでもたまに正義と信念を感じる瞬間があるんだ」*5は印象的ですね。
特に、大企業や役所などシステムの歯車の一員として動いている人には自分事として刺さりそうです。
『踊る大捜査線』もそうでしたが、刑事ドラマでは縄張り争いの話が結構出てきますね。
厚生省、国防省、外務省。
このうち厚生省は現実の厚生労働省と名前が似ているのに役割が全く違うので、話を理解しようとして混乱することがしばしば。
あと、あの世界の外務省には厚生省公安局や国防省と並べるほどの実権はあるのだろうかと少し疑問。日本以外の国は内戦で国家としての体を成していないという設定なら、外務省がまともに外交できる相手はほとんどおらず、したがって日本国内の政治における有用なカードを持っていないように思うのですが。
外務省が何をやっているのか(何をやっているからあんなに偉そうなのか)はCase.3で詳しい描写があるのでしょう。
須郷 v. 大友のように、過去に手合わせしていたからこそ相手の癖を読んだり相手の技を盗んだりして倒せた、という展開は大好きです。THE 因縁の対決。
須郷さんは業が深い。
もう何人もの人が指摘されていますけど、青柳さんだと知らずに撃ったのと同じ構造。つらいとしか言えません。
青柳さんも縢くんも征陸さんも死んでしまうんだよなあと思うと、アクションシーンでさえ見ていて辛くなってしまうことが。
あの世界、刑事の殉職が多すぎますよね。やはり現代よりもずっと治安が悪いのですね……。
Case.2はPSYCHO-PASSを知らない人にもおすすめできる一本
わたしはこのCase.2であればPSYCHO-PASSを知らない人にも刑事ドラマ、あるいはアクション映画としておすすめできるのではないかと思いました。
「潜在犯」「色相」「ドミネーター」などの世界観を頭に入れておくために、少なくとも第1期の第1話くらいは観ていただいたほうがよいかもしれませんが。
とにかく素晴らしい作品でした。
ネタバレ記事の最後で言うのもどうかと思いますが、PSYCHO-PASSファンのかたでCase.2を観に行かれていないかたがもしいれば、ぜひどうぞすぐに劇場へ。
須郷さんと征陸さんが主役ならいいやとスルーしていてはいけません! 他のキャラもたくさん出ますよ!
#pp_anime
2019/07/17 ブクログに転載しました。
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰 [DVD]』のレビュー 塩谷直義 (yulinyuletideさん) - ブクログ
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian [DVD]』のレビュー 塩谷直義 (yulinyuletideさん) - ブクログ
*1:Case.1冒頭で朱ちゃんが霜月のことを「美佳ちゃん」と呼んでいたのにちなんで、わたしも「美佳ちゃん」呼びを始めました。
*2:霜月美佳は第1期の王陵璃華子事件で被害者の友人役として登場していますが。
*3:たとえば、こちらのかたのブログ記事など。
サイコパス2期が1期よりも面白く無い理由を考えてみた - ほんだなぶろぐ
http://jin07nov.hatenablog.com/entry/2014/12/21/093947
何が君を駆り立てるのか?劇場版サイコパス感想 - ほんだなぶろぐ
http://jin07nov.hatenablog.com/entry/2015/01/25/172836
*4:記憶だけを頼りに書いているのでセリフ回しが一部異なっているかと思います。すみません。
*5:こちらも記憶だけを頼りに書いているのでセリフ回しが一部異なっているかと思います。すみません。