硝子細工の雛人形は
触れればきっと冷たくて
微笑みさえ知らないのに
あなたによく似合う気がしたんだ
もうすぐ
もうすぐあなたの好きな枝垂れ梅が咲くよ
戯れに交わした約束など
あなたはもう忘れていればいい
差し伸べられた重い花房をくぐる
千鳥ヶ淵のお堀のボート
次の春はふたりで乗ろうね なんて
夜空が霞む季節になって
いつでも傍にいたいと
大それた願い事 ひとつ抱いた
それでも
私があなたにできるのは
いつでも見守っていると
呼びかけることだけだから
花の綻ぶたびに忘れえぬ恋心など
私がそっとしまっておけばいい
「もうすぐ君の好きな枝垂れ梅が咲くよ
次の日曜日 みんなで見に行こう
君の元気な顔が見られたら
私もきっと走り出せるよ」
あなたは何も知らずに笑っていて
それだけで私は満たされる筈だから。