待機児童ではない。本当は「官製失業」なのだ
http://blogos.com/article/209462/
待機児童問題で論陣を張って一躍有名になった駒崎弘樹氏のブログ記事です。
「待機児童問題は官製失業問題だ」という駒崎氏の主張は、「じゃあ、待機児童いない地域に引っ越せよ」という巷のひとの声に応戦したもののようです。
わたしも駒崎氏の論には賛成します。
しかし一方で、「待機児童問題は官製失業問題だ」と声をあげても、ぐだぐだ言ってくる輩はまだまだいるのだろうという諦めの気持ちも抱いてしまっています。
つまり、
「児童福祉法上、自治体には保育の提供義務があるのだ」と主張すると、今度は
「児童福祉法が自治体に保育の提供義務を定めたのは、元をたどれば児童に保育を受ける権利があるからだ。
ならば、要するに児童が保育を受けられればよいのだから、自治体が保育を提供しなくても、母親(か父親)が仕事を辞めて子育てに専念すればいい。
お金の問題があるなら、所得補償すればいいじゃないか。
保育所を作ってまで母親を働かせてやる必要はない」
という議論に舞い戻ってしまうのではないかと懸念してしまうのです。
現行法上、共働き家庭が子どもを保育所に預けることができると定めているのは、駒崎氏の指摘する児童福祉法24条です。
第二十四条 市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法 の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所(認定こども園法第三条第一項 の認定を受けたもの及び同条第九項 の規定による公示がされたものを除く。)において保育しなければならない。
○2 市町村は、前項に規定する児童に対し、認定こども園法第二条第六項 に規定する認定こども園(子ども・子育て支援法第二十七条第一項 の確認を受けたものに限る。)又は家庭的保育事業等(家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業又は事業所内保育事業をいう。以下同じ。)により必要な保育を確保するための措置を講じなければならない。
現行法では、保育を必要とする児童が確実に保育を受けられることが大事なのであって、そのために保育を必要とする児童には自治体が保育を提供する義務がある、という建付けになっています。
つまり、保護者には子どもを保育所に入れる権利がある、とはっきり書かれているわけではないのです。
確かに、いちばん大事なのは児童が確実に保育を受けることですから、現行法の建付けでも問題はないように見えます。
でも、わたしはその建付けは限界にきていると思います。
その理由は、今の法律構成では、「自治体が保育を提供しなくても、母親(か父親)が仕事を辞めて子育てに専念すればいい」という主張にきちんと対応できないのではないかと考えられるからです。
特に問題となりそうなのは、父親の収入だけで十分に生活ができる家庭の場合です。
お金に困っていないなら母親が仕事を辞めて子どもの面倒を見ればいいんだから、「保育を必要とする児童」とは言えないのではないか、と攻撃されたとき、いまの児童福祉法をどれだけ盾にできるのでしょうか。
子どもがいても、一方の配偶者の収入だけで生活ができるとしても、母親達には勤労権がある! だから親には子どもを保育所に入れる権利があるのだ!
そういう法律構成にしないと、「保育所に入れるなんて子どもがかわいそう」とか「夫が高収入なら保育所に入れるな、自分で面倒見ろ」とか、ぐだぐだ言われて終わってしまうのではないか。そんな心配が心につきまとっているのです。
憲法の保障する社会権は、生存権(25条)、教育を受ける権利(26条)、勤労の権利(27条)、労働基本権(28条)です。
法学部生なら誰でも知っている芦部憲法*1で見てみると、生存権に5ページ、教育を受ける権利に3ページと少し、労働基本権に7ページ弱が割かれていますが、勤労権についてはなんと0ページです。節がないんです。労働基本権の節の冒頭でちらっと触れられているだけです。
ですから、勤労権の内容や保障の程度については、法学界においてこれまであまり議論されていないと言ってよいでしょう。
今こそ、法学界が勤労権、特に子どもをもつ母親の勤労権についての議論をすべき時なのではないでしょうか。
(おそらく、生存権について朝日訴訟で問われたようなことが問題になるのかなと思います。)
とかなんとか色々書きましたが。
子どもを持つ母親にも勤労権がある、と法的に整理できたとしても、
裁判で保育所に入れろと要求するのは権利の性質上難しいだろうし、
ぐだぐだ言ってくる人はいつまでもぐだぐだ言ってくるだろうし、
そもそも保育所をすぐに新設できるわけでもないし。
議論の実益はないのかも。。。。。。。。。
*1
憲法 第五版 芦部信喜(著), 高橋和之(補訂) 2011年3月
第六版が最新ですが、手持ちが第五版なのでご容赦ください。