本日Coccoさんの11th Album「クチナシ」がリリースされました! おめでとうございます!
このめでたき日に、前アルバム「スターシャンク」(2019)のこともちょっと振り返ってみませんか?
ということで、遅きに失した感はありますが、「スターシャンク」所収『極悪マーチ』の考察記事です。
「できるだけ普通に歩い(て)た」という歌詞が共通していることから、『もくまおう』(「ベスト+裏ベスト+未発表曲集」所収・2001)で描かれている「あなた」との美しい関係性も裏から見たら『極悪マーチ』の地獄絵図になるのではと考えています!
ちょっと過激な考察かもしれません😅
同じく「スターシャンク」所収の『海辺に咲くばらのお話』の考察記事はこちら。
ただし、ラジオや雑誌のインタビューでCoccoさんが『海ばら』について語っているのを見聞きする前に書いたものです。↓
- 許す・許さないで揺れて結局許せなかった『極悪マーチ』
- 「できるだけ普通に歩いた」で思い出すもくまおう――裏返したら地獄絵図!?
- Coccoさんの曲には珍しい仏教モチーフ
- 2001年Switch版『極悪マーチ』との比較
- ライブ音源・映像は一見の価値あり あえてマーチでなくした重厚感
- 【宣伝】初nana! 初の歌ってみた! 素人の歌う『極悪マーチ』
許す・許さないで揺れて結局許せなかった『極悪マーチ』
まず『極悪マーチ』単独で考察してみます。
わたしは、この曲はあなたの変化(1番サビ「あなたを変えてしまったの?」より)を許すか許さないかで揺れている歌なのではないかと考えました。
あなたがどう変化してしまったのかは曲中では明かされません。
離れていってしまったか、自分に冷たくなってしまったのか。
「背影」という単語からは、あなたの背中が離れてゆくのを何もできずに見送っているような印象も受けました。
1番Aメロは「許し方 教えてよ」からスタート。
つまりあなたを許せないところから始まります。
しかし1番サビでは「自分を責めた/攻め立てたの」と歌い、あなたではなく自分を責めています。
変わってしまったあなたのことは許そうとなんとか努力しているわけです。
続いて2番のAメロ・Bメロでも、あなたの変化は、まるで鳥が水辺に飛んでゆくように、自然な「月日の成れの果て運命」なんだと諦めようとします。
でも2番サビでは、「怒りに震え」、「地獄絵図」が広がってしまいます。
怒りの対象があなたなのか自分なのかはわかりせんが、結局許して昇華することはできなかったんですね。
しかもこの2番サビは間奏を挟んで二度繰り返されます。
つまり、『極悪マーチ』は変わってしまったあなたを許すか許さないかで揺れた結果、結局は許せなかったことを「極悪だわ」と歌い上げる歌なのだと考えられます。
「できるだけ普通に歩いた」で思い出すもくまおう――裏返したら地獄絵図!?
さて、この『極悪マーチ』。
歌詞を見聞きした多くの古参ファンが『もくまおう』を思い出したはずです。
できるだけ
普通に歩いた
進むべき道は
目の前に広がるから
もくまおう
怒りに震えながら
できるだけ
普通に歩いてた
極悪マーチ
『もくまおう』は曲調も歌詞も終始穏やかで美しい情景の描かれた曲です。
『極悪マーチ』とは似ても似つきません。
なのに共通する歌詞「できるだけ普通に歩い(て)た」が出てくる。
これは関連性を考えずにはいられません。
ここで、『もくまおう』で「あなた」との間に何があったのかに着目します。
すると、「あなたを縛っていた/全て解いて 気づいた」という歌詞からあなたとの関係性が何らかの形で変わったことがわかります。
「独り集めて 背負った」などの歌詞からも、あなたとは離れて今は独りであることを想像させます。
『極悪マーチ』の状況と共通点があるわけです。
『もくまおう』ではあなたが離れていっても祈りは溢れて止まらず、想いは変わらないと歌い上げられています。
美しいですね。
ところが、『極悪マーチ』は「極楽曼荼羅裏返し/地獄絵図が極悪だわ」と歌います。
この「極楽曼荼羅」がもくまおうの描く美しい景色のことなのだとしたら……?
『もくまおう』で描かれるあなたとの美しい関係性も裏から見たら「地獄絵図」なんだぞ、と言っているのが『極悪マーチ』かもしれないのです。
縛っていたあなたを解き放ってひとりになっても、あなたへの光(2番サビ「譲れない光は/この手に在るよ」より)に満ちた祈りと想いは止まらない。
その一方で、一緒にいられない事態になってしまったことについて、あなたや自分への怒りに打ち震える日もある。
この二面性、なんだかリアルな気がしませんか?
余談ですが、「普通」という言葉には、他人と比べて浮かないという意味と、いつも通りという意味と2つあると思います。
『もくまおう』の「できるだけ/普通に歩いた」の「普通」は、前者の意味だとわたしは思っていました。
不器用ながらも他人と比べて浮かないように日々を生きていく、みたいな意味だととらえていたんです。なんとなく。
5ちゃんねるのスレ「Cocco Part 164」でも同旨の書き込みを見つけました。
126名無しの歌姫 (ワッチョイ 15f4-OCNd)2019/10/04(金) 10:03:20.07ID:ge5oq7r00
ho-ho-hoだけ歌い方が懐かしい感じがする
極悪マーチで「できるだけ普通に歩い」が来てわウワーってなった
もくまおうの同部分の印象がひっくり返されそうだわw
上手くやれないけど自分なりに頑張って周りに合わせようとしてた的な状態をイメージして聞いていた
https://lavender.5ch.net/test/read.cgi/musicjf/1569934848/126
ですが、『極悪マーチ』の「できるだけ/普通に歩いてた」は英詞では"I tried to walk as usual"と訳されているんですね。つまり後者、「いつも通り」の意味です。*2
もちろん『もくまおう』の「普通」と『極悪マーチ』の「普通」が同じとは限らないですが、これを知るとちょっと『もくまおう』の読み方も変わってきそうです。
以上、『もくまおう』で描かれる美しい「極楽曼荼羅」も裏返したら『極悪マーチ』の「地獄絵図」なのではないか、人の二面性ってことかも、という説でした!
Coccoさんの曲には珍しい仏教モチーフ
この後は雑多なテーマについていくつか。
『極悪マーチ』に出てくる
「蓮の花」、
「極楽曼荼羅」、
「地獄絵図」
という単語は、明らかに仏教モチーフですよね!
でも、今までのCoccoさんの曲はどちらかというとキリスト教モチーフが多かったような気がするんですよ。
『雲路の果て』に出てくる「聖書」、
『My Dear Pig』に出てくる「教会」、
『裸体』『ねないこだれだ』『セレストブルー』『BEAUTIFUL DAYS』に出てくる「神様」など。
神様はキリスト教の神様とは限りませんが。
そういえば、「プランC」(2014)の『ドレミ』で日本の古典を使っていたのも今までのCoccoさんにはなかったなあと思った記憶があります。
「青い馬 色を抜いて 白馬」や「御髪(おぐし)」という表現のことです。
「青い馬」とは白馬(あおうま)の節会の白馬のことだと思います。
幸運の象徴である青い馬がただの白馬になってしまった、と。
願いをかなえる七夕のシンボルである「天の川」が嵐になってしまったことと併せて、幸せが遠ざかって行ったことを示すのかなと考察しています。
あ、『ドレミ』の話になってしまいました💦
また、ニューアルバム「クチナシ」の『潮満ちぬ』のセリフパート「潮満ちぬ 風も吹きぬべし」は、これも日本の古典、『土佐日記』からの引用ですね。
きっと、長いキャリアを経て引き出しが広がったのでしょうね!
2001年Switch版『極悪マーチ』との比較
実はCoccoさんが『極悪マーチ』というタイトルを使うのはこの曲が初めてではありません。
雑誌「Cocco―Forget it, let it go SWITCH SPECIAL ISSUE」(2001年4月12日発行 スイッチ・パブリッシング)の57ページに『極悪マーチ』という詩が登場するのです。
なお、http://ladybug0.fc2web.com/words.html によると、初出は雑誌「SWITCH」2001年1月号だそうなのですが、わたしは持っていないので確認ができません。すみません。
この2001年Switch版『極悪マーチ』には「あなた」、つまり相手が不在です。
「身の程知らずの極悪女」という言葉が繰り返され、ひたすら自虐しています。
ということで、タイトルは同じであるものの、スターシャンク版『極悪マーチ』と直接は関係ないものと思われます。
ただ、Coccoさんの中では自虐したり自分を責めたりする時に行進曲が鳴るのは共通しているようですね。
ライブ音源・映像は一見の価値あり あえてマーチでなくした重厚感
さてこの『極悪マーチ』、ライブ「Cocco Live Tour 2019 “Star Shank” -2019.12.13-」では大幅なアレンジが施されました。
太っ腹なことにCocco公式YouTubeチャンネルがYouTubeにフルでライブ映像を上げてくださっているので、まずはご覧ください。
圧倒されますよ。
なんとびっくり、前奏から鼓笛隊風のドラムが消えて、すっかりマーチではなくなってしまいました!
実のところ、最初は違和感があったんです。マーチじゃないじゃんって。笑
ですが、YouTubeで何度も聞いているうちにライブバージョンでないと物足りない体になってしまいました。
1番サビはアカペラで、自分を責め立てる悲壮感が身につまされます。
そして、2番サビは歌詞の1音ずつにバスドラムが入って、激しく沸き上がるような怒りが表されているように思います。
「マーチ」であることを捨てた代わりに「極悪」な重厚感に満ちた素晴らしいアレンジですね。