その花には香りなどは無く
思い出すときにはいつも
草いきれがにおうばかりなのだ
道端に狂い咲いたそれを
摘んで愛でて 投げ捨てて踏みにじる
春の花を語るならもう二度と
わたしの目は大きく見開かれ
たとえ歯を食い縛っていても
その痛みを知ることなど 決して出来はしない
高すぎる空に向かうでもなく
ただ押し寄せる風
季節を想う間もなく
ただ荒んでゆく肌
それでも
悲しいことなどあるはずはないのだ
柔らかなそれを足の裏に感じたままで
新しい花束を胸に抱いて
新しい熱をこの身に帯びて
悲しいことなどあるはずはないのだ
狂い咲いた花の香りに
誰が泣いていようとも
だからこそ