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ミライの源氏物語(著:山崎ナオコーラ – 2023/3/1)レビュー

ミライの源氏物語 単行本 – 2023/3/1 山崎ナオコーラ (著)*1のレビューです。

第33回(2023年度)Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作とのことで、東急線の電車内広告でたびたび見かけたために気になって買ったのですが、ずっと積ん読にしていて、今月ようやく読み終えました。
ちなみに、『源氏物語』は高校時代に古文の授業でいくつかの節を学んだほか、大人になってから瀬戸内寂聴訳で途中まで読みました(「藤裏葉」の途中で挫折)。

平安時代に作られた『源氏物語』には現代では受け入れ難い、現代の社会規範に反する描写がたくさんあります(ルッキズムロリコン、不倫など)。それでも『源氏物語』の読書を楽しむにはどう読んだらよいか、を解きほぐしているのが本書です。

語り口はやわらかで、『源氏物語』を読んで面白いと思うことも逆にもやもやすることも否定されず、とても読みやすいと思います。

平安時代の社会規範と比較して現代の社会規範も丁寧に解説されているので、道徳の教科書にもなるのではないでしょうか。

たとえば、「マザコン」の章では、光源氏が母親以外の人物に死んだ母親の影を求める姿について、「やっぱり気持ち悪い」と言いつつ、「『人間の変な見え方』の描写が、ものすごく面白い」と書かれています。
「人間の変な見え方」とは、人は目の前の個人に向き合わなければいけないにもかかわらず、人間の目にはどうしたって他人という存在が一塊に感じられる、その見え方のことです。親ではない異性に対しても「母親役」を求めてしまう「マザコン」がその典型的な例ですね。

また、「貧困問題」の章で著者は、『源氏物語』の平安時代の読者であった菅原孝標女が夕顔と浮舟に憧れた理由について、「貧乏って、うっとりする設定だから」だと想像しています。
貧乏って、うっとりする!
ここだけ切り取ったら炎上しそうですよね。笑

現代の社会規範には反していても、人間ってそういうものだよねというところをうまく描いているから、『源氏物語』は面白いのだと筆者は指摘しているのだと思います。

が、著者が舌鋒鋭く批判している読み方、許されないことは許されないのだと厳しく断じている行いもひとつあります。
「性暴力」の章です。
柏木が女三宮の意思に反して性行為を行ったことに対し、後世の読者や研究者たちの多くも、「密通」という言葉で表現し、「レイプ」や性暴力といった言葉は使ってきませんでした。そして、女三宮は「『密通』をして光源氏を裏切った」という設定にされてしまっています。
が、女三宮は性暴力の被害者です。悪いことは何もしていないのです。
「少なくとも、今後の研究の場では『密通』や『不義』という言葉は使わない方がいいのではないでしょうか? 女三宮の痛み悲しみにも寄り添って読んでいきたいです。」という筆者の指摘はもっともだとわたしも思います。
やわらかな語り口のなかで、「性暴力」については筆者の固い意志が際立っていました。

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