闇は集う (講談社コミックスなかよし) 第1巻~第8巻(http://booklog.jp/item/1/4061787896)のレビューです。
小学生の頃に「なかよし」で連載を楽しみに読んでいましたが、増刊号に掲載されたぶんなど一部のお話が未読だったこともあり、最近になって漫画喫茶で見つけたのを機に再読したので、レビューします。
どんな漫画なのか紹介しろと言われると難しいです。一言で言うなら、1990年代当時の「なかよし」には珍しいサスペンス漫画でした、と。あと、オムニバス形式なのも珍しかったですね。
ストーリーの紹介のため、第1話の"番人"の台詞を引用しておきます。
“ようこそ さまよえる魂のみなさん あなたがたは一度死にました”
“ここは生と死のはざま さまよう魂が集う場所です なんらかの理由で成仏できない霊魂がここに迷いこんできます”
“人生という道にはさまざまカーブや傾斜 分岐点があります そして行き止まりは死ーーそれが運命です でもあなたがたはある地点でその道を見失い迷子になってしまいました その先がまだつづくのか ほんとうに行き止まりなのか…… みなさんから話をきき それを判断するのがここの番人であるぼくの役目です もしまちがって迷っただけなら…… もとの道へつれもどしてあげましょう”
(「それじゃ……生き返ることも……?」という魂の問いかけに答えて)“場合によっては……ね” *1
そして、さまよえる魂は、自分の身に起こった数奇な出来事について番人に話し始めます……。
サスペンスとはいえ「なかよし」なので女子小学生向けです。小学生の頃はすごく深いストーリーだと思っていたのに、大人になったいま読むと拍子抜けするような話もありました。ひとって臨死体験をしたぐらいでそんなにあっさり変われるものなんだろうか、なんてひねくれたことも感じてしまいます。
でもやっぱり、「闇は集う」は素晴らしい漫画だと思います。ひとの心の機微を、少女漫画の枠で(要するに、性に関する言及なしに、ってことなんですけど)よく描ききっているなぁ、と。
たとえば、ひとが何か大切なことに気付いて優しさを取り戻す瞬間を描いた話(「ライバル」、「グッドバイマイディア」など)を読むと本当にほっとします。
一方で、悪意に染まりきり他人の心を省みない残酷な人物像も容赦なく描かれます(*2 ネタバレにつき後述)。どこか憎めない悪役、なんてものではなく、徹底的にクズです。彼らはたいてい破滅させられます。悪人が成敗されたのだからスカッとなってもいいはずなのに、モヤモヤとした後味が残るところに、リアリティーを感じます。つまり、悪人が成敗されたからといって、彼らに壊されたものは戻ってこず、残された人々はその絶望的な状況から這い上がらなければならないんですよね。むごい現実。
そして、なんといっても、番人が魅力的なのです。あんな神秘的で物腰柔らかなカウンセラーがいたら大評判間違いなしでしょう(笑)
でも彼は、さっき挙げたような悪人たちには容赦なく、その哀れな行く末を見てくすくすと心底楽しそうに嗤います。
このギャップがたまりません。
番人のほかにも、悪魔や暮崎弁護士など数話に登場するキャラクターが何人かいて、特に暮崎弁護士はお気に入りです。ああいう何を考えているかわからないキャラクターは面白いですね。
もし暮崎弁護士に尋ねたら、きっと「自分は職務を忠実にこなしているだけだ」という答えが返ってくるんでしょうけど、弁護士は仕事を選べるはずなので、あんな厄介な人たちとばかり関わるのはひとえに彼の性格によるものかと思われます。いやはや。
そういうわけで、「闇は集う」は名作少女漫画です。漫画喫茶などでお見かけになったら是非ともお読みいただければと思いますし、復刊(単行本未収録の最終話も含めて!)も切に希望いたします。
(しかし、ネットで検索する限りでは、作者の松本洋子先生に盗作疑惑があるらしく……。復刊は厳しいのでしょうか。だとしたらファンとして大変悲しいです)
*1 闇は集う (1) (講談社コミックスなかよし (789巻)) 著:松本洋子 1994 pp.8-13
*2「最後の晩餐」の両親、「ミッドナイト・シンデレラ」の香耶、「幸福な少女」の玲司など。